江戸時代から明治時代にかけて、日本人の「性」に対する価値観は、国家の近代化とともに劇的な転換を迎えました。一言で言えば、「おおらかで多様な文化」から「管理と規律の文化」への変容です。
それを西欧諸国の価値観を押し付けられたと同時に、日本本来の文化が薄れていきました。
1. 江戸時代:性の「解放」と「境界の曖昧さ」
江戸時代の日本人は、現代の日本人から見ると驚くほど性に対してオープンで、羞恥心のあり方が異なっていました。
- 混浴と露出
銭湯での混浴は一般的で、夏場にふんどしや腰巻き姿で外を歩くことも珍しくありませんでした。肉体的な露出が即座に「卑猥」とは結びつかない感覚です。 - 春画の流行
葛飾北斎や喜多川歌麿などの有名絵師が「春画(性描写のある浮世絵)」を描き、男女問わず娯楽として楽しまれていました。 - 衆道(男色)の受容
武士や僧侶の間では、男性同士の恋愛(衆道)はごく自然な嗜みとして認められていました。 - 性の多層性
庶民の間では「夜這い」のような地域共同体の慣習が残る一方、都市部には吉原のような「遊郭」が公認の社交場として機能していました。
張形などに見る当時の日本人の文化
一言で言ってしまえば、江戸時代から存在した伝統的な「女性用の大人のおもちゃ(性具)」のことです。
現代で言うところのディルドやバイブレーターに相当します。
1. 素材と製法
現代のようなシリコンやプラスチックが無かった時代ですので、職人の手によって様々な素材で工夫されて作られていました。
- 木製: 檜(ひのき)などが多く、表面を滑らかに研磨して漆を塗り、肌当たりを良くしていました。
- 陶器製: 表面が非常に滑らかで、お湯で温めて使うことができました。
- 角・牙製: 鹿の角や象牙など、高級品として扱われました。
- 紙製(一貫張): 紙を何層にも貼り合わせ、漆で固めた軽量なものもありました。
これらが街中で普通に売られていて、短命だった当時、旦那さんを早くに亡くした奥方が使用していたとされています。
町民は直ぐに再婚が可能でしたが、武家の家では再婚が認められていな事が多く、20代~30代の若い奥方にとっては、より「張形」を必要としていました。
冷たい感触を嫌った事でお湯を入れて使える陶器製もあったという事ですので、当時の限られた資源の中で本気でアイデアを出して作られていたという事が垣間見れます。
西欧諸国の人達が日本に入ってきた際に、そのあまりにもリアルで生々しい形状の「張形」が普通に売られているのを見て、キリスト教的な観点から販売を禁止したとも言われています。
2. 江戸時代の文化としての「張形」
江戸時代、張形は単なる隠し持たれる道具というだけでなく、浮世絵(春画)や戯作(文学)の中に頻繁に登場するポピュラーな存在でした。
- 春画での描写
非常に写実的、あるいは誇張されて描かれ、当時の性文化の豊かさを象徴しています。 - 女性の自立と娯楽
奥御殿(大奥)に仕える女性や、独身の女性たちが愛用していたという記録が多く残っています。 - 薬種問屋での販売
当時は「健康器具」や「雑貨」のような扱いで、薬屋などで普通に売られていた時期もありました。
3. 名前について
「形を張る(かたをはる)」、つまり本物の形状を模して作ったもの、という意味からその名がついたと言われています。また、中が空洞で熱湯を入れ、人肌の温かさを再現できる工夫が凝らされたものもありました。
非常に歴史が深く、当時の職人技術の粋が集まった「工芸品」としての一面も持っています。
張形とは逆ですが、現代の「テンガ」なども、その精巧さなどを見る限り当時の日本の文化を引き継いでいる気がします。
2. 明治時代:文明開化と「性の規律化」
明治維新後、政府は欧米諸国から「文明国」として認められるため、キリスト教的価値観に基づく道徳観を急速に取り入れました。
- 「恥」の再定義
1872年の「違式(いしき)詿違(かいい)条例」により、「混浴の禁止」や「屋外での裸体」が取り締まりの対象となりました。 - 男色のタブー化
それまで寛容だった同性愛的な慣習は、西洋の精神医学や法観念の影響で「異常」や「恥ずべきこと」とみなされるようになりました。 - 良妻賢母の思想
国家を支える家父長制を強化するため、女性の性は「家庭」と「生殖」といった事に強く結びつけられ、楽しみや快楽の為にする事ではないという「貞操観念」が強調されるようになりました。 - 春画の弾圧
春画は「猥褻物」として厳しく規制され、江戸時代の開かれたエロティシズムは地下へと潜ることになります。
こうやって日本の文化は影を潜めていき、代わってキリスト教の考え方を押し付けられるかの様に近代化してましたが、何を隠そうキリスト教圏の離婚率は非常に高く、それに続く様に日本の離婚率も高くなってきました。
こうしてみると、ある程度「性に奔放」だった時代の方が夫婦関係も円満だったのかもしれません。
「夜這い」や「遊郭遊び」など、多少の浮気的な行為をしてもお互い様といったところだったのでしょう。
本能を理性で押し込み過ぎると、一見恰好良く見えますが、本質的な部分としてはマイナスな面が増えてくるのかもしれませんね。

